2010年11月20日土曜日

No.25 国際協力の現場から : 人財が支える自立支援


 パキスタンでのJENの事業は過去9年間で5件に上る。『自立支援』なのになぜ、終わった後に始まるのか。持続可能な自立支援であれば、一たび終了すれば次の支援は不要となるはずではないのか。

 理由は単純だ。効果の広がる速度が極端に遅いからだ。適切な自立支援の後には、自立への道を再び歩み始めた人々とコミュニティがある。だが、周囲の状況が悪ければ、その遅々とした自立への歩みも後戻りすることさえある。周辺地域に効果が広がってゆくと楽観的に考えたとしても、気の遠くなるほど長い時間がかかる。

 元々、自立支援というもの自体が促進剤ではある。人が生まれながらにして持つ自立する力は、本来であれば、極端な貧困の中にあっても発揮される。支援の手など差し伸べられなくても人々は暮らしを向上させてゆくが、現状では、世界の仕組みがそれを難しくしている。厳しい暮らしに追い打ちをかける紛争や災害は、その歩みを更に鈍化させる。そんな状況でも自立する力が速やかに発揮されるように、サポートするのが自立支援だ。

 自立支援の効果の伝播の速度が遅ければ、様々な地域で支援のニーズがあることになる。例えばJENの支援地であったカシミール州(A.J.K)のバーグから今回の洪水支援の事業地であるハイバル・パフトゥン・ハー州(K.P.K)のチャルサダまでは約200km。日本でいえば、直線距離で東京から長野にあたる。バーグからバロチスタン州のジアラットに至っては約3,000km、北海道と沖縄ほど離れた場所にある。広いパキスタンのあちこちで大きな災害があれば、各地での支援がそれぞれ必要であるのは自明と言えるだろう。悲観論でも何でもなく、一つの地域で実施した自立支援の効果が他の地域に与える影響は、残念ながら現状ではあまり大きくない。

 だが、重要な影響を与えるものがある。地域を越えて移動できる人財だ。今回の洪水での緊急出動にも、カシミール地震支援で活躍してくれた現地職員が、現在就いている別の職を休んで駆けつけてくれた。既にJENの目指すものや仕事のやり方を判ってくれている職員は、到着したその日から活躍できる。緊急事態に遭って支援を待つ被災者の強い味方だ。文字通り叱咤激励しながら、被災の悲しみから立ち上がる人々を支えることができる。重要なのは、その職員が更に周りの職員や被災者を勇気づけ、次の『強い味方』を育成してゆくことだ。今回の洪水被災者緊急支援も、一定の期間を経て終了する。その後に残る人々が地域や国の財産となるような支援を続けたい。


(写真:がれきを取り除く工具を受け取る、洪水被災者。パキスタン・チャルサダ県にて)

(ニュースレターNo43より転載)

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